本人許諾があってもWebサイトに掲載できない写真がある(教育系NPO法人の例―<8>)

「写真の許諾」や「Web用の素材」についての事例と解説をお伝えしていきます。

ここまでのお話
1-1:Webサイトの目的と優先順位を確認
1-2:Webサイトのターゲットはどんな人?
1-3:ターゲットが理想の状態になるために必要なコンテンツの洗い出し
1-4:予算にかかわりそうな事項について確認
1-5:運用サイクルを確認
1-6:制作会社をどこにするか?首都圏or近隣?
1-7:制作会社3社に制作見積もりを出したらピンからキリまでなんと10倍以上の差が!
1-8:本人許可があってもWebサイトに掲載できない写真とは(本記事)

写真をたくさん撮りためている=Webサイトで使える素材が多いわけではない

このNPOでは、イベントのたびに写真係を任命して、さまざまな写真を撮りためているということでした。そのため、初回打ち合わせの際は写真素材に困らなさそうな話をされていましたが、実際に写真を選ぶフェーズでは少々難航しました。

というのも数百枚の素材があるとされていたのは、ほとんどがいわば「活動の記録写真」に過ぎず、Webサイトを来訪した人を信頼させ、寄付やボランティアに向けて前向きな気持ちにさせるインパクトという点では正直物足りないものでした。

さらに、同意を得られている生徒がきちんと写っているかというとそれもまた別の話で、同意を得られていない生徒しかきれいに写っていない、または同意を得られていてもきれいに写っていないということで、Webサイトに使える素材は結局ほぼないという状態でした。

「何かに使えそう」で漫然と撮るのではなく、「〇〇に使うもの」と想定して撮影しよう

そこでこれからWebサイトの素材を撮影するという方々にお伝えしておきたいのが、「後で何かに使えるかも」と撮影するのではなく、(そういう写真ももちろん撮ってもよいのですが)撮影前に「<事業内容>を説明するときに使おう」「〇〇のページのタイトル画像にしよう」「SNSの告知に使おう」と想定したうえで撮影する、つまり被写体に許可を取っておくことはもちろん、使用シーンも意識して取るということです。

たとえば「寄付集め」は重要な活動であるにもかかわらず、寄付をイメージした素材写真を持っている団体はほとんど見かけません。
「寄付したくなる写真ってどんなんだろう?」と団体内で打ち合わせをして、合意を取っておき、さらにカメラマンがいる場合は、構図のラフを渡しておくと万全です。
寄付以外にも「採用」「ボランティア募集」といったページで、さてどんな写真が使えるか…というケースは多いので、スタッフが集まる機会やボランティアが集まる機会に、素材写真を確保しておくとよいでしょう。

未成年の写真(動画)や個人名を扱う上で注意したいこと

また、後々のトラブルを回避するために、下記を万全にした素材を用意しましょう。

  • 書面で本人の許可(同意)を得ていること
  • 18歳未満の場合、保護者の許可(同意)も書面で得ていること

口頭の合意ではなく書面で本人と保護者に、本人の写真を「何に使うか(Webサイトを含めた広報物全般と記載しておくとよいでしょう)」に同意してもらっておくと安心です。

ステークホルダーが複数いる場合、未成年写真はさらに注意

たとえば、当該NPOが行政や学校その他の団体から助成をもらっているなど、ステークホルダーが複数いる場合があります。その場合は未成年である本人・保護者以外にも、そのステークホルダーにWebサイトで写真を使いたい旨、話を通しておくと安心です。

このNPOと最初にお打ち合わせをしたときに、著者は「このWebサイトの内容の是非をチェックし、判断するのは、どなたになりますか(複数いますか)」とステークホルダーの有無を確認したのですが、NPO代表は「すべての原稿は、僕だけで判断します」と回答されていました。

しかし、実際には2回目の打ち合わせをした際に、偶然助成をもらっているステークホルダーと居合せて、念のため生徒の写真をWebサイトに利用したい旨を伝えたところ「受験が終わるまで、いや合否が出るまでは受験生の写真は撮ってほしくない」とNGを出されました。

学校や行政は、民間よりもトラブルを恐れる傾向があるように思います。撮影や制作が終わった後でNGを出されてしまうことのないよう、ステークホルダーには事前に話を通しておき、許可がもらえるか、きちんと確認しておくことが重要です。
彼らの恐れるトラブルの例はこのようなものかと思います。

  • 何かの事件の被害者・加害者になった時に、望まぬ形で世間に拡散されたくない
  • 受験や勉強の妨げになってほしくない
  • Webサイトに掲載後、受験で失敗した場合に「あんなことさせていたから落ちた」と言われたくない

など…

撮影した写真にどうしても利用許可が下りない場合の代替案

本人や保護者、そしてステークホルダーからどうしても許可が下りない場合はどうすればよいでしょうか。いくつか事例をお伝えします。

<構図を「提供側」に合わせるパターン>

写真の構図やピントを、未成年に合わせるのではなく、大人に合わせるパターンです。例を二つ挙げます。

teachforJapanhttp://teachforjapan.org/)/2016年11月時点

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教える人材の輩出がテーマという事もありますが、講師側にピントが当て、子どもは向こう側を向いていても不自然な印象を与えません。

カタリバ(http://www.katariba.net/)/2016年11月時点
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こちらも上記と同様に、高校生に熱く語る大学生の、愛のあるまなざしや真剣さが伝わってくる現場の画像を使用しています。

<誰だかわからないくらいの大きさまで「引き」で撮るパターン>

「雰囲気は伝わるけれど、本人かどうかがわからない」…というくらいの顔の大きさまで「引き」で撮影した写真も押さえておくのも安心です。
表情が見えたほうが訴求力が強いというのは捨てがたいメリットですが、ステークホルダーがどうしてもどれにも許可を出さない場合等に使えます。

<写真素材サイトから購入するパターン>

モデルの使用許可を得られた写真素材を購入する
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イメージの近い、販売している写真を使うというパターンもあります。
プロが撮影しているため、明るさ、健全さが演出できます。また、撮影が入らない分、モデルの調整等の工数がNPO側にかからないというメリットもあります。
ただ、コストがかかる(1枚あたり数百円から数万円)のと、「自団体らしさ」を出すのに限界があるため、素材が集まるまでの仮のものとしておくという考え方もあります。
(上記の素材は http://amanaimages.com/home.aspx から)

素材イラストを利用する

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有料のイラスト素材を使うメリットは、実際にモデルの撮影をするよりも大幅に手間、撮影費が省ける、イラストを新規書き起こしするより圧倒的に早い、ということです。デメリットは写真素材と同じく、コストがかかるのと、「自団体らしさ」を出すのに限界があります。
(上記の素材は http://amanaimages.com/home.aspx から)

<代役を利用するパターン>

イメージ写真でよいなら、代役を立てるのも手

別の若者支援系のNPOで実際にあったケースとして、その若者が「当事者であること」を隠して生きていきたいのでWebサイトには載りたくない、ということがありました。当事者の支援を依頼するというWebサイトで、若者の写真を載せないのは広報的には厳しいため、下記のような工夫をしたケースもあります。

  • 高校生役として、インターンの大学生が高校の制服を着用
  • 子ども役は、NPO役員のお子さんが出演

ドキュメンタリーとして見せている素材で“やらせ”をしているわけではなく、団体のイメージ写真として撮影したということです。「本当に本人かどうか」が大切なケースと、イメージ写真でよいケースとを折り合いをつけて、安全・スムーズかつ安価に進められる方法を選ぶようにしましょう。

<無料素材サイトを利用するパターン>

無料素材サイトの注意点

無料素材サイトにはさまざまなものがありますが、ユーザーが自由に投稿できるシステムの場合、著作権や肖像権に疎いユーザーが投稿しないとも限らず、権利がクリアになった素材が掲載されているとは限りません。
他者の権利を侵害しないよう、運営者や規約等を慎重に検討しましょう。

素材+デザインツールの「Canva」

KDDIウェブコミュニケーションズが運営する「Canva」は無料素材の提供もあり、画像の加工もできるサイトです。海外素材は豊富ですが、日本人の素材は少ないため、ブログのイメージ写真等には使えそうですが、国内向けの事業でここぞという素材の場合はそれなりに予算か手間をかけるのが良いでしょう。

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MARCHITECT

大阪出身。大学卒業後上京し、一部上場の教育系の出版社でコミュニティ運営、サイト企画、編集、Webプロモーションなどに約15年従事。
退職後、フリーランスとしてNPOや社会的企業を中心に、事業計画・運用改善・ディレクション・プロモーション・編集・ライティングなどでサポートしています。