ディー・エヌ・エーは 2016年 12月 5日、同社が運営するキュレーションメディア「MERY」の公開を中止すると発表しました。
早ければ、7日にも公開が中止されるとのことです。これで、同社のキュレーションメディアは一連の問題により、全10サイトが公開中止する事になりました。
このニュース、なにが問題だったのでしょうか? 今後、「メディアサイト」にはなにが求められるのでしょうか? 少し解説してみたいと思います。
キュレーションとは
キュレーション(Curation)とは、「整理」や「要約」といった意味で、ある特定の話題について複数の情報源から記事や画像を集めて、まとめることで情報を見やすくする作業を言います。
これまでも、いわゆる「まとめサイト」などを運営している人や業者はありましたが、NAVERが運営する「NAVER まとめ」というサービスは、この情報の検索や引用などを非常にやりやすくし、まとめページを簡単に作成できる上、ページビューに応じて報酬が得られるなどで、利用者が増え、一気にキュレーションが一般的になりました。
キュレーションの問題点
今回、このキュレーションが問題となり、DeNAのメディア閉鎖をはじめとしてリクルートなど、各社のキュレーションメディアに「飛び火」をしています。
キュレーションメディアは、これまでも度々 Webサイトの運営者を中心に問題視されてきました。それは、「著作権」の問題です。
キュレーションは基本的に「オリジナルのコンテンツ」は非常に少なく、他の人が書いた記事や他のカメラマンが撮影した写真などを利用して記事を構成します。これが「著作権の侵害」なのではないか、「いやいや引用の範囲だ」として度々論争になるのです。
著作権法と引用
ここで少し、著作権について整理しておきましょう。著作権とは、「著作物」を保護するための法律で文章はもちろん、写真、絵画、図形、映画やコンピューターのソースプログラムなども対象になっています。
著作権は、発表した時点で何ら手続きや宣言をしなくても自動的に有効になります。よく勘違いしやすいのが、Webサイトなどに「(C)」や「Copyright」と言った表記で著作者を明記しますが、あれらの表記は、あってもなくても日本国内およびほとんどすべての外国では有効となります。(一部に例外の国があります)
つまり、ネット上で公開されているすべての文章や写真は、制作した人の「著作物」であり、それを勝手に利用したり、改変したりすることはできません。ただし、ややこしいのが「引用」という制度です。
引用とは、著作権法で認められた「他人の著作物を利用する権利」で、例えばある書籍を紹介したい人が、その書籍の一文を紹介したいと言うときに、わざわざ著者に許可を得るという手間を省くために認められています。
引用のためには、次のような要件を満たす必要があります。
- 報道、批判、研究などの目的である
- 引用部分とそれ以外の部分の主従関係が明確である
- カギ括弧などで引用部分を明確にする
- 出所を明示する
等があります。この記事でも、次の部分で文化庁のサイトから引用をしてみましょう。
「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のことをいいますが、法律に定められた要件を満たしていれば著作権者の了解なしに引用することができます(第32条)。この法律の要件ですが[1]引用する資料等は既に公表されているものであること、[2]「公正な慣行」に合致すること、[3]報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること、[4]引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること、[5]カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること、[6]引用を行う必然性があること、[7]出所の明示が必要なこと(複製以外はその慣行があるとき)(第48条)の要件を満たすことが必要です(第32条第1項)。
このように、この記事を理解するために、必要であると判断された場合は他人の著作物の一部を借りることができるというわけですね。
キュレーションは「引用」か?
ここで問題になるのは、キュレーションは「引用」にあたるか否かという問題です。
キュレーションメディアは、あくまで引用のスタンスを取るため、上記の「引用部分を明確に区分する」や「出所を明示する」などは標準で挿入されるようなシステムになっています。
しかし、キュレーションは、基本的にオリジナルの文章はほとんどないか、あっても各「引用」を繋ぐための文章に留まってしまいがちです。すると、引用で認められている「主従関係」の部分が危うくなります。
また、写真や画像については掲載をすることで、そのキュレーションページを彩る「装飾」にもなり得るため、これを「引用」と捉えることができるのかは、特にカメラマンの人やその写真を「購入」している所有者にとっては、納得しにくいのではないでしょうか。
SEO対策で力をつけてきたキュレーション
こうして問題を抱えたまま力をつけてきたキュレーションメディアは、多くの多種多様な記事を蓄え、そこにSEO対策などが施され、検索結果の上位を占めるようになってきました。
オリジナルの記事を掲載している有用なブログサイト、メディアサイトよりも、それらの情報を切り貼りしただけのキュレーションメディアが上位に表示され、アクセスを奪いはじめてしまったのです。
そして、キュレーションメディアは広告やアフリエイト(商品の販売によって収入が得られる販売代理業務)などとセットになって、商品購入への誘導などを行な事がほとんどなため、オリジナルの記事の著作者としてはますます悩ましい存在になってしまったのです。
クラウドソーシングへの大量発注で、記事の質の低下
SEO対策をするためには、ある程度のページ量、情報量が必要となってきます。どんなに質が高い記事でも、数ページしかないサイトだとどうしても上位表示はしにくくなってしまいます(諸説ありますが)。
そのため、各社のキュレーションメディアは情報の量産に必死になります。ここで活躍するのが「クラウドソーシング」です。
クラウドソーシングや、ネットを通じて仕事を依頼できるサービスで、フリーランスのライターや企業はもちろん、少し仕事をしたい主婦や副業をしたい会社員などを中心に、人気が広がっています。キュレーションメディアは、このサービスを通じて記事の作成を依頼し、どんどんと記事が量産されていきます。
しかし、単価の低い記事作成の案件は、プロのライターは敬遠し、著作権法に対する意識の低い受注者が引き受けてしまい、どんどんと質の低い記事が量産されるという悪循環に陥っていきました。
ついに爆発したWELQ
この騒動の発端となったのが、DeNAを運営する「WELQ」というキュレーションサイトです。このサイトでは、「医療情報」に絞って記事を掲載していました。しかし、その質は決して褒められたものではなく、著作権法はもちろん、薬事法等にも抵触している恐れがある、質の低い記事が散見されました。
SEO効果は非常に高く、ほとんどの症状などで検索の上位に表示され、その解決法などは効果が疑わしい内容も多く見受けられました。
そして、問題の発端となったのが、SEOを専門にされている株式会社so.laの辻正浩さんがつぶやいた、次のツイートになります。
[死 にたい]でSEOされたwelq(運営:DeNA)の大きな問題
「死にたい」といった、自殺を悩んでいる人が想定されるキーワードに対し、上位に表示されるページでアフリエイトへの誘導を行なっていた事を指摘するツイートでした。このツイートは、瞬く間に「拡散」され、WELQに対する記事の質の低さ、それに伴うキュレーションメディアへの不満が一気に爆発したのです。
大きな代償を払ったDeNA
DeNAはこれにより、2016年 11月 29日に WELQをはじめ、関連する9サイトの全記事非公開化に踏み切ります。唯一「MERY」というサイトだけは、運営を続けるとしていましたが、こちらも記事が大量に削除され、また12月 5日にこの MERYの非公開化も発表しました。
実は、DeNAはキュレーション事業に参入するため、2014年に既にキュレーションメディアを展開していた会社を2社、50億円をかけて買収していました。
2016年中の黒字化を目指していましたが、今回の処置により「黒字化を先送り」としました。
求められる検索サイトの対策
今回の問題は、キュレーションという手軽なしくみによる質の低い記事が量産される土壌と、黒字化を急ぐあまりに品質をないがしろにしてしまった DeNAの体質、そしてそれまで溜まっていた「キュレーション」への不満が爆発した結果と言えます。
しかし、著作権と引用の問題や、記事の質の問題は「キュレーション」というしくみを潰したとしても、解決はしない問題と言えます。それよりは、「質の高い記事が正当に評価される」しくみが必要ではないでしょうか。
検索エンジンが、記事の量やSEOのテクニックではなく、「記事の質」を正当に評価できるようになり、多くの人が評価できるしくみ。検索クローラーという「機械」を相手にしたサイト制作ではなく、見る人をしっかりと考えた記事を作り、それが評価されること。このしくみができる事が、今後のインターネット文化に必要なことかも知れません。