制作会社3社に制作見積もりを出したらピンからキリまでなんと10倍以上の差が!(教育系NPO法人の例―<7>)

Web制作会社へ見積もり依頼をすると、その見積もりはピンキリです。なぜそんなに差があるのか、見積もり額の根拠について解説していきます。

ここまでのお話
1-1:Webサイトの目的と優先順位を確認
1-2:Webサイトのターゲットはどんな人?
1-3:ターゲットが理想の状態になるために必要なコンテンツの洗い出し
1-4:予算にかかわりそうな事項について確認
1-5:運用サイクルを確認
1-6:Web制作会社の選び方
1-7:制作会社3社に制作見積もりを出したらピンからキリまでなんと10倍以上の差が!(本記事)
1-8:本人許諾があってもWebサイトに掲載できない写真がある

今回のNPOでは3つの制作会社社から見積もりを取りました。

3社に同じ資料を送って見積もりを出してもらっても、その差は10倍以上のケースも

今回、NPO側は要件を以下の2つの資料にまとめて制作会社3社に送りました。

  • Webサイト企画案(目的とやりたいこと)
  • Webサイト構成案(10ページ前後)

数日経って3社から回答が出そろった結果、驚くことに上から下までその差に10倍の開きがありました。それらの差はなぜ生まれるのでしょうか。
「良心的な制作会社とボッタクリ制作会社がある」という見方もありますが、多くは「前提」が異なるから生まれるのです。
見積書をもとに解説していきます。

A社の見積もり:660,000円台

<A社内訳>
トップページデザイン・コーディング 160,000円台
下層ページ(約14P想定):250,000円台
WordPress導入:90,000円台
制作進行管理:100,000円台

個人や小規模NPOのWebサイトの制作に 66万円と聞くと「うっ」となりますが、15ページだと1ページ44,000円。ロゴは依頼しないものの、イチからどんなものにしたいのかのデザインのための打ち合わせをして、カンプ案を作って、修正指示をもらって直して、さらにそれをコーディングして動作確認して…と考えると、1ページ 4日かかっても不思議ではありません。1日 8時間労働して日給 1万円でもおかしくない…とも言えそうではあります。

(筆者の考える、制作会社Aが前提として想像したであろうこと)

  • クライアント側が、平均的な事務・タスク処理能力を持っているという前提でやり取りにかかる平均的な時間を想定して工数を算出
  • デザインはすべて新規に作成
  • それなりのデザイナーを用意

ということを想定していると思われます。その前提に立つならば、妥当だと思います。

B社の見積もり:1,290,000円台

<B社内訳>

(PCサイト)
トップページ(サイト設計) 190,000円台
下層ページベースデザイン 90,000円台
団体紹介ページ 40,000円台
活動内容 90,000円台
支援・参加のご案内 60,000円台
お知らせ 60,000円台
お問い合わせ・FAQ 20,000円台
プライバシーポリシー 10,000円台

(スマートフォン対応)
ベースデザイン 120,000円台
個別ページ対応(ページ数により増減 (例)3-4P) 140,000円台

(CMS(WordPress))
インストール・設定(管理画面チューニング) 30,000円台
オリジナルテーマ作成 40,000円台
プロジェクト管理機能 80,000円台
お知らせ管理機能 40,000円台

(その他)
ソーシャルメディア対応一式(ソーシャルボタンの設置、OGP設定など) 30,000円台
ディレクション(制作進行管理) 160,000円台

(備考事項)
<対応ブラウザ>
■OS「Windows」/IE11のみ、Chrome(最新版)、Firefox(最新版)、Edge(最新版)
■OS「Mac」/Safari(最新版)、Chrome(最新版)、Firefox(最新版)
■OS「iOS」/MobileSafari(最新と一世代前のiOS) ■OS「Android 4.4以降」/Chrome(最新版)
※上記「最新版」とは本制作物が納品された時点での最新版を指します。上記ブラウザ以外は国内の利用者数のシェアが10%未満であるため、サポート対象外とさせて頂きます。(表示されないわけではございませんが、サイトの仕様により表示崩れが生じる場合がございます。)
サポート対象ブラウザ以外での正しい表示をご希望の場合は、ご希望されるブラウザにより別途お見積もりをさせて頂きます。

<スマートフォンの横向き画面表示対応について>

対応すべきデバイスの画面サイズも様々な種類が出ているため、基本的には横向き表示まで考慮しての制作はいたしておりません。横向き画面でのデザインまで対応することをご希望される場合は、制作費総額の10%分を別途請求させて頂きます。

<作成画像の修正回数について>

■制作中における本制作物の修正は申込者において当社に申し出があった場合、2回まで無償で行います。その際、修正内容は一度のご連絡で修正希望箇所をまとめてお送りいただくことを基本とし、連絡回数で基準を設けさせていただきます。3回目以降の修正に関しては別途見積もりの上、対応するものとします。

(筆者の考える、制作会社Bが前提として想像したであろうこと)

  • クライアント側が、新規に立ち上がるNPOに対し「極めて多忙、デスクワーク経験の乏しさ等から、事務・タスク処理能力に問題があり、やりとりに時間や説明の手間等がかかると想定しており、1つ物事を進めるにも非常に時間がかかる」と想定している
  • デザインはすべて新規に作成
  • かなりのデザイナーを用意
  • 後からいろいろ追加の要望をされて料金で揉めないよう、MAXで見積もりを出して、削ってもらう方式にしリスクを回避したい
  • または料金を理由にさくっと断られたい・関わりたくない

ということを想定していると思われます。その前提に立つならば、これも妥当といえそうですが、これでは手が出ません…。

値引き交渉するとしたら削れそうなところはどこか

それでは、もしもここから値引き交渉するとしたらどこが削れるでしょうか。

  • NPO側は期日までに完全原稿と素材写真を用意する。こちら側のチェック期日は完全に守る。守れない場合は1日あたりプラス1万円で構わないのでベースは安くしてほしい。(ディレクション費用からマイナス 50,000円)
  • WordPressのインストールが終わった後の、類似ページの量産はNPO側で行う(下層ページ制作費からマイナス 100,000円)
  • ソーシャルメディア対応一式は不要(ソーシャル対応費用からマイナス 30,000円)
  • 修正依頼は2回までとなっているが、1回の場合、0回の場合はそれぞれ相当額値引きしてほしい。

…といったところでしょうか。それでもマイナス 180,000円にしかなりませんし、チェック期日を守れない場合にひどい目にあいそうです…。
※マイナス価格は筆者の勝手な想像です。

この制作会社に依頼するとよいのはどんなケースも考えてみましょう。

  • Webサイトを持つことで、出した金額の回収が確実に見込める
  • 原稿を書くのも、段取りをするのも苦手。ITスキルも全くないが口は出したい
  • 妥協したくない。(2回までとはいえ)思い切りダメ出しを遠慮なくしたい
  • 予算がある。(必須)

といったケースだと思います。上記4つともに当てはまる場合は、B社に依頼するとよいでしょう。ただし、<注意事項>にあるように、何度も修正要望を出すと費用はかさむということに注意です。

制作会社が値引きを考えてくれる提案とは

少し話はそれますが、制作会社の見積もりを値引きしてもらいたいときに有効な方法を紹介します。

「制作費は抑えていただが、むこう〇年、運用保守契約をする」
「今回の案件では値下げしてもらうが、同時に別案件の依頼もするので、グロスで見積もりしてもらう」

いずれも、本案件とは別の契約を結ぶ必要がありますが、上記が可能なら提示してみるとよいでしょう。

C社の見積もり:110,000円台

<C社見積もり内訳>
テーマ費用(例) ※1 10,000円台
設定料 ※2 100,000円台

(注意事項)
※1 テーマは、以下のサイトなどからお選び頂き実費をご負担頂きます
http://minimalwp.com/
※2 設定料には、以下の内容が含まれます
・サーバーへの設置
・初期設定・メニュー・カテゴリーなどの構築
・テーマカスタマイズでできる範囲のカスタマイズ(色の変更など)
デザインの変更などが発生する場合は、別途費用が発生することがありますので、ご了承ください。

(筆者の考える、制作会社Cが前提として想像したであろうこと)

  • デザインはしない。レイアウトは既存のテーマ(テンプレート)を選んで購入する形
  • あらゆる画像はクライアント側で準備
  • 原稿の流し込みもクライアント側で実施
  • ディレクションはなし、適宜質問に答える形。クライアント側に自立・自主性が必要

新規にNPOを立ち上げたばかりということで、B社は万全の体制にして高めの料金設定をしたのに対し、C社は「なるべく手をかけない」ようにして安く抑え、リスクを抑えるという形を取っていることが想像できます。

それでは、この制作会社Cに依頼するとよいのはどんなケースでしょうか。

  • 高いお金をかけてWebサイトを持っても、回収できるかどうか微妙
  • 原稿が書ける、段取りできるメンバーがいる。ITスキルも多少ある
  • 最初は妥協できる。Webサイトで回収が見込めるとわかってきたらだんだんとサイトを育てていけばよいというスタンス
  • 予算がない

といったケースでしょう。

逆に、上記に当てはまったとしても気をつけたいことは以下のようなことです。

  • デザインにこだわりたいケースは別途費用がかかる(トップページなどのメイン画像など)
  • 図版を用いて説明したい場合も、自分で用意できない場合は別途費用がかかる
  • ある程度自主性に任されているため、自分に甘いとリリースが伸びる
  • ステークホルダーが多数おり、チェック出しや集約などディレクションにかかわるパワーがハンパない

制作会社の見積もりがなぜ開きがあるか?ということをまとめると(繰り返しになりますが)「それぞれの制作会社が想定する前提が異なるから」ということになると思います。

具体的には

  • どのくらい制作前に具体的に要件を詰められるか(企画・設計者がどのくらい稼働するか)
  • どのくらいWebマーケティング・ツールに詳しいか(企画者・ディレクターがどのくらい稼働するか)
  • デザインにどのくらいこだわるか(デザイナーはどのレベルで、どのくらい稼働するか)
  • 修正指示をきちんと取りまとめて的確に伝えられるか、後出しで言ってこないか(デザイナー・コーダー・ディレクターがどのくらい稼働するか)
  • きちんと締め切りを守れるか(ディレクターがどのくらい稼働するか)
  • どのくらい余裕のある工期か(全体にどのくらい残業が発生するか)

といったことです。

「高い」にも「安い」にも理由はあるので、3社以上から取って落ち着いて比較し、妥当性を判断するのがよいでしょう。
可能であれば「こういうことがしたい」という目的を伝え、「予算は〇円までで、目的に向かって何ができるか提案してほしい」という見積もり依頼をすると制作会社も提案に工夫をしやすく、また見積もりが出そろった時に比較をしやすくなると思います。

参考記事:制作会社への見積もり依頼で伝えておくとよいこと

 

NPOの場合、活動1年以上、かつ団体の年間の財政規模が 2,000万円以下なら、サービスグラントなどのプロボノも検討を

今回のNPOは設立前だったので依頼ができませんでしたが、活動1年以上経ったNPOの場合なら、サービスグラントが仲介するプロボノに依頼することもできます。

<組織に関する基準>
○ 特定非営利活動法人をはじめとする非営利目的の法人または任意団体であり、明文化された団体の運営規約を有すること
(※株式会社、有限会社、合同会社、有限責任事業組合等および宗教法人、政治団体は支援対象外です。)
○ 日本国内に活動拠点があること
○ 活動実績が少なくとも1年間以上あること
○ 専従または専従に準ずる活動をするスタッフがいること
(団体の活動・業務に大半の時間を使って注力されている人。給与・報酬等の有無・給与形態・雇用形態については問いません。)
○ 所轄官庁等が定める資料(事業報告書等)の提出等、法人として必要な義務を果たしていること

また、Webサイトのプロジェクトの場合は下記の基準も追加になります。

○ 主たる活動現場(=支援対象者が居住・滞在・活動する地域)が、団体の活動拠点から近接していること
○ 申請いただく成果物に関して、既に「自力で」できる取り組みをひと通り行っていること
(※例えば、ウェブサイト支援プログラムに応募される団体の場合・・・「自団体でウェブサイトを立ち上げ、自力でできる情報発信には取り組んできた」「ブログを活用し、活動情報は都度発信している」等)
○ (ウェブサイト支援プログラムのみ)団体の年間の財政規模が、2000万円を超えていないこと

サービスグラントは2016年11月1日に認定NPO法人となった組織で、見知らぬフリーランスや個人のプロボノに依頼するよりクオリティも断然安心です。
NPO側にとっては交通費や印刷費などの実費負担のみで、満足度の高い仕上がりになると思います。

 

下記の記事もご確認ください。

自団体の予算、スキル、パワー等の事情に合わせて、最適なところを選ぶようにしましょう。